愛してもいいですか




「日向」



社長室のある六階に着き、廊下を歩きながら手元の書類を再度確認していると、突然かけられた声。

振り向くとそこには、資料を数冊持った架代さんの姿があった。
黒のジャケットに少し短めのスカート。胸元がざっくりとあいた白いインナーが、少し色っぽい。



「あ、架代さん。どうかしました?」

「もう定時でしょ?私まだやることがあって遅くなりそうだから、先にあがっていいわよ」

「え?でも架代さんより先にあがるわけには……」

「いいのよ、たまには」



架代さんはそう言い切ると「この書類だけお願いね」と手にしていた資料を手渡す。それとともに、懐に隠していたらしい何かを俺へずいっと押し付けた。



「あと、これ」

「え?」



見ればそれは、小さな透明袋に入った数枚のクッキー。茶色く、所々黒っぽく焼けた色にいびつな丸型のそれに、思わずまじまじと見てしまう。



「これって……?」

「……作っ、た」



作った……って、架代さんが??



「えっ……えぇ!?本当ですか!?架代さんが!?あの家事苦手な架代さんが!?」

「うるさいわね!本当に作ったわよ!そこまで疑うことないでしょ!?」



架代さんといえば、思い浮かべるのが先日の荒れに荒れたあの部屋。洗濯のやり方すらもろくに知らなかった人が手作りクッキーをくれたとなれば、そりゃあここまで驚いてしまうのも当然だ。