愛してもいいですか




あの日、本当は彼女に来てほしくなかった。

あの場に来れば頭を下げることになってしまうことも分かっていたし、なんだかんだ言っても架代さんが幸せなら、ゆっくりデートでもなんでもしてくればいいと思っていた。

……あの男のために着飾ったのであろう姿も、見たくなかったし。



だけど架代さんは、来た。綺麗な服も台無しに、髪もボサボサ、化粧もドロドロ。靴のヒールもボロボロで、踵には血を滲ませて。そんな格好で床に額をつけた。

俺はどうしてこの人にこんな姿をさせているのだろう。そう思ったら、自分に対して悔しくて、腹が立った。

だけどそんな俺に、架代さんは言った。



『私はそれ以上に、嬉しい』



細い指でしっかりと顔を掴んで、長い睫毛の大きな瞳で俺の顔を見て。そう、言ってくれた。



けれどそれをきっかけに、結果として二人の仲は終わった。いつかそうなるだろうことも、どことなく感じてはいた。

だってそもそも、架代さん自身が相手を好きかどうかも分かっていなさそうだったから。



傷付いてばかりきた彼女はきっと、見失っていたのだろう。“結婚”という言葉の持つ意味を。

……まぁ、そう言った点では本当に一安心かもしれないけれど。





あの夜『一生結婚出来ない』と泣く彼女を抱きしめたのは、伝えたかったから。

大丈夫、そんなことない。あなたの全てを受け入れたいと願う人間は絶対にいる。ここにいる、ということを。

その小さな肩に、そっと、ぎゅっと。