「頭下げるとか、土下座だとか……そんなものは俺の仕事で、そんなことをさせるために俺はあなたの秘書になったんじゃない」
俯き呟く彼の言葉から感じるのは、苛立ちと悔しさ。すると日向は、その場で勢いよく頭を下げた。
「……架代さん、すみませんでした」
「えっ……なんで?ちょっと、謝らないで、頭を上げて」
「いえ、全て俺の不甲斐なさのせいです」
「そんな……」
頭を下げたままのその姿から、察することが出来た。
彼は、悔やんでいるんだ。自分一人の力では場を収められず、結局私があの場に来たこと、私に土下座をさせたこと。どうにも出来ない、自分の力不足さに。
ねぇ、日向。でもね、そうじゃないの。
「……日向、頭を上げなさい」
「……いえ、」
「社長命令よ。早く」
「……それは、ずるいです」
職権乱用、とでもいうのか。ずるい言い方をする私に、日向は渋々頭を上げる。
私より頭一つ高い位置にくるその顔を、私は両手でそっと包むように触れた。
「私は、会社のために頭を下げることを悔しいことだなんて思わないし、日向にも思ってほしくない」
「でも、今日デートだったんじゃ……」
「それでも断ってきたのは私自身が決めたことだもの」
両手で包むその顔は、なんだかいつもより少し情けない。余裕もなく、笑えてもいない。だけど、初めて見るその表情が、またその存在を近く感じさせる。



