「だって仮にも会社ひとつ背負ってる人間のすることじゃないでしょう?夢だ目標だ言ってたのに、結局男一人に揺らぐのかって話ですよ」
「うっ……」
「それに、そんな選択をさせた相手の男にも、俺は腹が立ちますけどね」
「え……?」
『腹が立つ』そう言った瞬間の日向の目は手元のファイルへと向いたまま。けれど、いつもよりどこか冷ややかで、怒りのような、初めて見る表情をしているように見えた。
怒って、いる……?
「日向……?」
「なーんてね。ま、そもそも家事も出来ない架代さんにそこまで言い寄るような男がいるとは思えませんけど」
ところが、パンッとファイルを閉じると同時に、パッと見せたのはいつも通りのへらっとした笑顔。
「どんな選択をして人生を決めるかは、架代さん次第ですから。自由にしたらいいんじゃないですか」
相変わらずの軽い言い方をしながら、その言い方はどこか突き放すようにも感じられた。
この前、日向に話した私の目標。これまでの経験と、これからのこと。
それらすべてを置いてでも、私は彼といたいのか。選んだ道に後悔はしないのか。
『秘書としては最高ですから』
頭の中にあの日の日向の笑顔を思い浮かべて、ただ一つはっきりと思うこと。
……日向に軽蔑は、されたくないな。それ、だけ。



