「周りの大人や親戚には『男の子だったらよかったのにね』って、昔からよく言われたわ。そりゃあそうよね、後を継いで会社を背負うんだもの。嫁に行くかもしれない、出て行くかもしれない娘より、息子のほうがいいはず」
「……けど、宝井社長はそんなこと思うような人じゃないですよね」
「えぇ。『女でも男でも関係ない、自慢の子供だ』って、言ってくれた」
『女でも男でも関係ない。架代は俺の自慢の子供だ』
疑っていたわけじゃない。だけど、しっかりとくれたあの日の一言。たった一言が、なによりも、嬉しかった。
「だから、そんなお父さんのためにも頑張ってきたし、これからも頑張るの。今はJ.I.デザインを立派な会社にして、いつか宝井建設を継いで……私自身も、たくましくなるのよ」
それが、変わらない私の夢。ずっと、ずっと、抱えている気持ち。
「……なんて、やってるから余計嫁に行けなくなるんだけどさ」
赤信号で止まる車の中、はは、と自虐気味に乾いた笑いをこぼしながら、何気なしに目を隣の日向へ向ければ、こちらを見つめる優しい瞳が向けられていた。
「な……なによ」
「いいえ、頼もしい社長でなによりだと思って」
褒めているのか、バカにしているのか。わからないけれど、その穏やかな瞳に、嫌な気持ちにはならない。
誰にも話したことのない、自分の抱える仕事に対する気持ち。それを素直にこぼせたのは、どうしてか。ましてや、こんな男に。



