「何か飲まれます?俺は運転なのでノンアルコールですけど、架代さんはアルコールで……」
そう言いかけた日向の胸ポケットでは、ヴー、と携帯のバイブ音が鳴った。
「電話、鳴ってるわよ」
「あ、本当だ……会社からですね」
「この時間に電話ってことは急ぎの電話なんじゃないの?出てくれば?」
「いえ、でもこの場に架代さん一人残して行くわけには……」
電話をしに出て行きたいけれど、つい先程のように声をかける相手もいるかもしれない。それらの気持ちの間で揺れる日向は、手元の携帯と目の前の私とでキョロキョロとする。
「あれ、社長?どうかされたんですか?」
「え?あっ、神永!」
そこに背後から姿を表したのは、恐らくお父さんの付き添いで来ていたのだろう、スーツ姿の神永だった。私はいいタイミングとばかりに、そんな神永を捕まえる。
「私神永といるから、ほら日向、電話行って」
「へ?なにが……」
「っ〜……わかりました、すぐ戻りますから、神永さんといてくださいね!」
まぁ、神永なら、と渋々納得したように日向はまだ鳴り続ける携帯を手に、急ぎ足でホールを出て行った。
そこに私と残された神永はなんとなく状況を読みながら口を開く。
「えーと…つまり私は、日向が戻るまで社長と居ればいい、ということで?」
「えぇ、そういうこと。過保護な秘書で困っちゃうわ」
ふん、と呆れたように言えば、神永は整った眉を動かし苦笑いを浮かべた。



