I love you に代わる言葉

 十二時頃に、おねーさんは部屋にやってきた。ノックの後に躊躇いがちに開かれる扉。おねーさんの姿を見て、珍しくシンが驚きを含ませた声を上げた(因みにシンは十一時頃に起きてきた)。
「……白に、したんだな」
 え、とボクはシンを見る。その表情は、驚きながらも何処か安堵した風でもあった。喜んでいるようにも見える。おねーさんは微笑みながら静かに、けれども強く、うん、と頷いた。その微笑みの中には、何か強い信念と覚悟が窺えた。ほんの少し下がった眉が意味するのは、シンや両親に対する感謝や謝罪だろうか。自分を支えてくれた人たちを想っているみたいに、ボクには見えた。
 おねーさんは、膝丈の白いワンピースを着用していて、その上に紺色のカーディガンを羽織っている。黒のタイツを履いているから、肌色は顔と首と手しか見えていない。白、とは、当然ワンピースを指した言葉だろう。
 おねーさんは扉の傍でくるりと一回転して見せると、どう? とシンに向かって尋ねる。シンは、
「いいんじゃねぇか?」
 と一言。その言葉に、おねーさんは満足気に笑った。
「日生くん、そろそろ行きましょうか」
 シンからボクへと視線を移し、おねーさんはそう言う。ボクが立ち上がると、おねーさんはくるりと背を向け、玄関へと下りてゆく。ボクもそれに続き部屋を出ようとしたが、
「――日生」
 シンに呼び止められた。顔だけで振り返り背後を見ると、シンは穏やかな顔付きで言った。
「ねーちゃん、去年まで黒い服だったんだ」
「え?」ボクは身体ごと振り返る。
「……吹っ切ったんだ。完全に決別する気だろうぜ――今日で」
 ボクがぽかんとシンを見ていれば、シンは突然立ち上がった。そしてボクの傍に歩み寄ると、左手をぽんっとボクの左肩に置いた。シンはボクの目を真っ直ぐに見据え、日生、ともう一度静かに名前を呼んだ。
「墓の前で堂々と言ってやれ。――自分が幸せにするからねーちゃんを譲れってな。そして墓の前で、謙也さんからバトンを受け取って来い」
 シンはニッと笑った。ボクはシンの言葉に驚かされて、一瞬言葉を失った。けど、何処か冷静に思考する部分が、言葉の意味を知らせてくれる。ボクは目を伏せ、フッと笑った。そして視線を上げシンを真っ直ぐに見ると、ニッと笑ってボクは言った。
「――当然だ」