I love you に代わる言葉

 少し歩いて、二人の声が届かない距離、しかし目視し得る距離へ来ると、近くにある休憩用ソファーに、おねーさんは丁寧にゆっくりと腰掛けた。ボクはその傍に立つ。今井達を見るおねーさんの横顔は、とても優しいものだった。
「なんで、離れたの?」
 その横顔に向かって問うと、おねーさんはボクを見た。そして再び、今井達に目を向ける。
「私たちは多分、邪魔だから」
 答えを聞き、おねーさんの視線の先を、ボクも一緒に見た。ああいう見た目なのに、上原という女はとても引っ込み思案に見えた。今井(なんか)を前に、何処かおろおろとした様子だ。けど、時折恥ずかしそうに笑う。今井もまんざらじゃない様子でへらへらっとした調子だ。二人の間にあるぎこちない空気、花が飛んでいるみたいな空気が、見ていて新鮮だった。
 数分経っても今井はこちらに戻ってくる様子はなく、未だ会話に花が咲いているようだ。この現状に苛立ち始め、ボクは溜息をついた。するとおねーさんがスッと立ち上がる。
「?」
 どうするのかとおねーさんを見ていれば、おねーさんは少し悪戯な笑みを浮かべ、思いがけぬ言葉を発した。
「置いて帰りましょうか」
 え、と僅かに漏れるボクの声。あんなヤツ放ってさっさと帰りたいと内心思っていたボクだが、此処にきて、いいのか? と思ってしまう。いつからボクもこんなお人好しになったんだと少しむず痒い感覚が襲った。
「いいの?」
 バッグを肩に掛け直し歩き出そうとするおねーさんに短く問うと、おねーさんは今井達をもう一度見た。まるで弟を見守るような優しい眼差しを今井に向けながら、
「たぶん、大丈夫」
 おねーさんはとても穏やかな笑みを浮かべてそう言った。