I love you に代わる言葉

「日生」
 シンは、振り向く事無く、ボクの名を呼んだ。そしてそのまま語り出した。
「実際に傷を受けた者と、それを見ているだけの者が、同等の苦しみだとは言わねぇ。だが、見ているだけの人間も、同じように傷付くし辛いもんなんだ。何もしてやれなくて、不甲斐無さに悩まされて……苦悩する姿を目の当たりにする度に、己の無力さを否応なしに痛感させられるだけだ。掛ける言葉一つ間違えば、善人から一気に転落し、悪人になる。もどかしくて、仕方がねぇ……けど、一番傷を負う者が目の前に居るから、弱音を吐く訳にもいかねぇ。――だからと言って、それを理解してくれとも言わねぇし、傷を比べようとも思わねぇ。ただ、ねーちゃんが苦しんでいる時も、日生が両親の事で苦しんでいる時も、俺は確かに辛かった。今井だって、辛かったと思うぜ」
「解ってる……いや、今ならアンタの言ってる事が理解出来る」
 当時のおねーさんの悲嘆にくれる姿を、ボクは想像する事しか出来ない。その範囲内の事しか理解出来ない事は、何も理解出来ていないのと同義だろう。それでも、おねーさんの姿を見てボクも辛いと感じた事は、嘘じゃない。今、ボクは見ているだけの者になっている。実際先刻も、ただ見ていただけだ。
 シンは漸く振り返った。その顔にはまだほんの少し憂いが含まれていたけど、シンは笑っていて、何処か嬉しそうに、そうか、と言った。
「ねーちゃんが元気を取り戻した頃、突然家を出たいって言い出したんだ。新たな道を歩む為に、新しい風を感じたいって言ってな。まぁしかし、ある程度元気を取り戻したとはいえ、ねーちゃんの精神状態を当然家族みんな心配してな、両親はひたすら反対した。あんな事があった後に一人暮らしなんてさせられねぇし、一人になる事で再び孤独を感じてしまうんじゃないかって。まぁその後なんやかんや色々あって、結局俺がねーちゃんについてく事で両親は渋々承諾したんだ。俺が高校生になる時にこの家に来た。肩書きなんて要らねぇから高校なんて何処でも良かったし、勉強する事に命も懸けてねぇからな。両親にねーちゃんを支えてやってくれと頼まれたし、まぁ一応、姉として好きだ。だから今、二人で暮らしてんだ」
「そう、だったんだ……ちょっとだけ、両親居ないのかと思った」
 ボクが正直にそう言うと、シンはいつもみたいにハハっと笑った。
「よく勘違いされるが、ピンピンしてるぜ? 今井なんか俺と二人の時、両親居ないのか? って直球に聞いてきたからな」
「今井ってホントバカだね」
「ま、それが今井のいい所だ」
 馬鹿がいい所、か。不思議なもんだ。あの馬鹿に救われた事が沢山あるなんてね。