今も尚接客中のおねーさんに視線を戻す。相手している客は子供だ。小学校低学年くらいの男児。何故平日のこんな時間帯に居るのかは謎だが、母親と来ているのだから何らかの理由があるんだろう。
 石が相当好きなのか歩き回って石をつつき回す。男児の手に引かれおねーさんもそれに笑顔で付いていく。その後方で母親が「お姉さんに迷惑掛けちゃダメよ」と言いながらハラハラと困った様子で見ていた。それをボクは傍観。
 もうかれこれ三十分。
 途中、オバサンも接客しなくていいの? と尋ねたが、あの親子は「花恋ちゃんの客」だと言っていた。何それ。別に指名とか無いだろうに。そう思ったけど特に何も言わなかった。
「そういえばさぁ、……何でわかったの?」
「? 何がだい?」
 不意に尋ねた言葉の意味を、オバサンは理解出来なかったみたいだ。
「……、……万引き」
 やや間を置いてから重要な単語だけを呟く。それでオバサンは理解出来たみたいだった。
 ああ、と小さく声を洩らすと、眉を少し下げて困った様に笑った。
「あんたが実際にした所を見た訳じゃないんだけどねぇ。……商品が無くなれば気付くもんなんだよ」
「どういう意味?」
「この店に防犯カメラが設置してあるのはあんたも知ってるだろ? しっかりとカメラの死角に入ってたからねぇ」
「まぁ、ね」
「死角で悪事を働かれちゃ現行犯で捕まえる事は出来ないし、万引きにも気付きにくいんだよ。だけど、商品が無くなった事だけは後に必ず分かるもんでね、それでカメラを確認するんだよ。すると度々あんたが一人で映ってたってわけさ」
「全ての商品が何個あるのか把握してるわけ?」
「いやいや、流石にそれは無理な話さ。……だけど無くなれば気付くんだよ。あたしだけじゃない、店員なら案外すぐにそれが分かる」
「……ふーん、そういうもんなんだ。でも分かってたんならさぁ、ボクが来た時徹底的にマークすればよかったんじゃない?」
「ある程度はあたしも見ていたつもりだったんだけどねぇ。あんたどれだけ見てても上手くやるから困ったもんだよ」
「まぁね」
「もうしちゃいけないよ」
 オバサンはそう言って腰に手を当てながら、何とも言えない笑みを浮かべた。困った様な、悲しんでいる様な。
 ははっと笑いを零した後、ボクはそっぽを向いた。
「……おねーさんにも言われたよ」
 そう言って笑みを消したボクの視界に映るオバサンは、少しだけ驚いている様に見えた。「そうかい」と一言呟いた後、ボクから視線を外して再びおねーさんを見ていた。