I love you に代わる言葉

「日生の母親、随分若かったな。何歳だ?」
 シンはとても穏やかな口調で、そんな事を尋ねてくる。ちっ、さっきから何なんだよこいつ。これまで、ボクを憐れんで何も言わなかったくせに。心に黒い感情が一気に渦巻いたのが自分でも解った。膝に肘をついて手を組み、その手に額をついてボクは顔を隠す。そうやって、答える気が毛頭無い事を全身で伝えた。
「父親は何してんだ?」
 シンは続けて質問してきた。先程の問いは答えを求めたものじゃないのか。こいつは何の為にこんな事を聞いてくる。“あの事”は無かった事にしようと思っていたのに。ボクは心持ち顔を上げた。
「はっ、父親なんか知らないさ。幼い頃から家に殆ど居なかったしね。顔だって覚えてないよ。そもそも最初から居なかったものと思ってるさ」
 ボクが答えれば、シンはとても静かな口調で、そうか、と言った。
「もうその話はするなよ。不愉快だ」
 ああ、本当に心底、不愉快だ。
 嫌悪の情を露に冷たく言い放てば、シンは真面目くさった顔をして、ボクにとんでもない言葉を放った。
「本当は、両親が好きなんじゃないのか?」
「――は?」
 組んでいた手から僅かに顔を上げ、シンを鋭く睨み上げる。この瞬間、ボクはどす黒い感情に支配された。
「何言ってんのさアンタ。そんな訳ないだろ。――死ねばいいさ、あんな親」
「本当にそう思ってるか?」
「当たり前だろ。……いい加減口を噤みなよ。それ以上ふざけた事言ったら、アンタでも許さない」
 ボクがそう言うと、シンは黙った。けど、ボクに恐れをなして噤まれたものじゃない事はすぐに解った。シンの口元には薄っすらと笑みが作られていたから。――何笑ってるんだ、こいつ。