I love you に代わる言葉



 それから三十分程して、シンから電話があった。早く早くと真剣に願った割りに、あっさりと掛かってきた。けど、人目を盗んで掛けてきたらしく、長くは話せないとの事だった。何かあったのかと尋ねてくるシンに、全てを話すべきか迷ったけど、限られた時間の中で躊躇している余裕も無いから、オルゴールの件をシンに話した。あと、掃除機は無いかと尋ねた。
 シンはただ『……そうか』と呟いた。そして、『掃除機はねーちゃんの部屋のクローゼットの中だ』と言った。駄目だ、流石にそこまで勝手に開けられない。ボクが黙っていると、
『スリッパ履いてるから大丈夫だろ。気になるんなら、ガムテープでペタペタしとけ。ガムテープはキッチンの近くにある棚の、どこかに仕舞ってある筈だ』
 ボクはただ、わかった、と返事をした。思い悩むボクの心情を察しているのかシンの声はいつもより暗く感じた。
『――日生。俺の部屋に「真実の永眠」っていう漫画が置いてあるだろ? あれを全巻、ねーちゃんの部屋のベッドに置いといてくれ。読ませてくれって言ってたからな』
「……は?」
 何を言っているんだこいつ、この状況で。不可解さに眉を寄せながら、シンが次に発する言葉を待つ。ボクは次の瞬間、言葉を失う事となる。
『頼むぜ。……それを部屋に入った理由にしろ。ベッドに置いた時に棚にぶつかったとか本を落としたとか適当に理由付けて割ったって言っとけばいいさ』
 ケータイを耳に当てたまま固まる。ボクは酷く感動を覚えていた。
『悪い、もう戻る。あんまり気にするなよ。――じゃあな』
 返事が返らない事を気にする様子もなく早口にそう告げると、シンは電話を切った。
 ケータイを畳んでポケットに戻すと、ボクはのろのろと立ち上がり、シンの言っていた漫画をごっそりと本棚から取り出した。全部で二十巻だったから二回に分けて運ぶ。わざと、枕元に本を置いた。オルゴールの置かれていた棚に近くなるように。これでは少々無理があるけど、それでも理由を作ってくれたシンには感謝している。帰ってきたら礼を言わなければ。