相も変わらず変わり映えのしない退屈な毎日。見慣れた風景。見慣れた顔。見慣れた道。それらが視界に映るが何も思わない。ただ無心に目的地を目指す。目的地とは先刻の会話で出た“煌宝”という何とも珍しい鉱物屋だ。キラキラした石が置いてある。そこによく通っている。
 別にお気に入りの店という訳ではない。欲しいものが置いてある訳でもない。お目当ての女が居る訳でもない。
 通う理由なんて簡単。万引きする為だ。
 そこに勤めている無愛想なオバサンがあまりに防犯体制が緩いから、ボク達によって「万引きの出来る店」として白羽の矢を立てられた訳だ。何ともまぁ、愚かな事。
 そこまで思考して、ボクは口の端を吊り上げた。
 ――ま、そんなバカ相手に万引きの際しくじった仲間はもっとバカだ。
 先刻一緒に居た仲間の一人が、煌宝で万引きした際、そのオバサンに見付かったのだ。仲間集めて群がってりゃ誰だって怪しむさ。通報するに至らなかったらしいが、色々面倒だったと聞いている。
 たまたまボクはその場に居合わせておらず面倒に巻き込まれずに済んだが。だけど、それが幸いだったと思っている訳じゃない。面倒事が嫌いだから良かったと思った程度、だね。
 そもそも奴らは“仲間”という丁度いい単語で呼んでいるだけで、友達でも何でもない。ただつるんでいるだけだ。奴らが警察に捕まろうが罰を受けようが、ボクには関係の無い事だ。
 そこまで思考し、ボクは足を止めた。煌宝は目前。
 相も変わらず変わり映えのしない退屈な毎日だった。見慣れた風景。見慣れた顔。見慣れた道。それらが視界に映ると思っていたが。
 今日煌宝の店に立っていた店員は、いつものオバサンじゃなかった。


 若い、女だ。