I love you に代わる言葉



 紅茶を飲み終え、軽い雑談を交わした後、ボクはおねーさんの部屋へ向かう。そういや、引き戸から奥へ進むのは初めてだ。引き戸を開ければ、リビングとキッチンが眼前にパッと広がる。しかも対面式キッチンか。おねーさんと住んでいるならこの綺麗な家は納得だ。おねーさんは社会人だしね。
 互いに一人部屋があるからかも知れないが、リビングはとてもさっぱりとしていた。物が少ない。白の絨毯が床一面に敷かれていて、その上に黒い長方形のテーブル、そしてテレビ台とテレビ。それだけが置かれている。使用頻度は少なそうだ。何の為のリビングだろうという感じ。シンの部屋にも小さなテレビあるし、本当、何の為のリビングだろう。
 キッチンもきちんと片付けられている。客人を迎えるから慌てて片付けられたものとは違う。普段から綺麗にされている事が窺える。おねーさんがしているのだろうか、それとも分担か。それにしても、置いてあるのもがいちいち洒落ている。多分、柄とかを見るにおねーさんの趣味だろう。小さな食器棚に入っているシンプルな皿やコップはシンの物だろうな。
 引き戸を右、キッチンの横を通り過ぎれば、右に扉、左に引き戸が見える。そして微かに……音色が聞こえる。音に引き寄せられ三歩と進めば、右の扉の中からそれは聞こえてきた。扉を凝視する。此処が多分、否、確実におねーさんの部屋だ。
 音色に歌詞はない。この音……オルゴールか? 何とも悲哀に満ちた音色。何を想いながら、これを聴いているんだろうか。ボクは扉の前でただ、耳を澄ませていた。が、数秒後に音は止んだ。
 暫く、ノックする事が躊躇われた。何だか、今の音色を聴きながら、おねーさんが泣いているんじゃないかと思ったからだ。