テーブルに肘をつき、白い箱に入っている鉱物を無意味に眺めながら、ボクは先週の出来事を反芻していた。
「――どうしたんだ? 日生」
 目の前で出掛ける準備をしている今井が、不意に声を掛けてきた。
 時刻は十三時。ボク等はこれから、シンの家へ行く予定だ。しかも、今日は泊まりで。
『泊まりに来るならこの日にしてくれ』
 シンが言った「この日」が今日だ。その為の準備を今井はしているという訳だが、元々ボク等は十三時に家を出る予定だったんだ。あれ程「今日の内に準備をしておけ」と昨晩言っていたのにこれだ。今は、今井の準備が整うのを、ボクは仏頂面で待っている、という具合だ。ていうか、前から思ってたけど、たった一泊で何をそんなに準備する必要があるんだよこいつ。
 ボクは溜息をついて、
「別に」
 素っ気無く答えた。
「シンの家に泊まるのは初めてだな。シンのねーちゃんと話す機会とか出来んじゃねーか? 夜ならシンのねーちゃんいるだろうしな」
 着替えを鞄に詰め込みながら、笑顔で今井は言う。が、突然ハッとした表情を見せた。
「ま、まさかお前……! 今あれこれ想像してたんじゃねーだろうな!?」
 その発言を聞き、無言で冷たく睨み上げる。拳をパチンと胸の前で掌に当てる動作をすれば、今井の表情が引き攣った。
「殴られたいならそう言えばいいだろ」
 立ち上がり、口元に笑みを浮かべながら今井に近付けば、この狭い空間の中、今井は必死に後ずさる。やがて逃げ場を失うと、手を上げて降参の意を訴えてきた。
「ままま、待て待てっ! 悪かったって! 可愛い冗談だろ」
 今井はそう言ってにへらと笑う。
 ボクは溜息をつくと、ゆっくりと元居た場所に腰を下ろした。ふぅ、と安堵の吐息を漏らす今井が何とも馬鹿馬鹿しかった。