I love you に代わる言葉

「日生くん、この間、誕生月が五月と言ってましたから、それで誕生石の翡翠を選んだんです。五月はエメラルドの方が有名なのですが、エメラルドは高価なので私は持っていないんです」
 ごめんなさい。そう言葉を続けて、少しだけ眉を下げながら微笑んだ。
 温かい感情が全身を巡った。覚えていて、くれたのか。おねーさんにとってボクは、ただの客に過ぎないのに。
「べつに……謝らなくていいよ」
 小さくそう言えば、おねーさんは安心したように笑った。
「誕生石を持っていると何らかのご加護があると昔から言い伝えられていますが、日生くんは以前、そういうものを信じてないと言っていましたね。私も、持っているだけではそんな効果は得られないと思います。だけど、石を持つ人の想いによっては、ご加護が全く無いとも私は思いませんので、翡翠を好きになれたら、大事にしていたら、それはそれで何か絆というか、深い関わりというか、そういうものが生まれるような気はするんです」
 ボクは黙って手の平の翡翠を見ていた。
「日生くんの誕生石ですし……お守りみたいな感覚で持っていてくれたら嬉しいなって思って、それで翡翠を選びました」
 おねーさんの顔を見れば、嬉し恥ずかしそうに笑っている顔が目に映る。
 幸せだ。
 生まれて初めて思った感情かも知れない。
「あ、でもっ、いらなかったら……」
「貰うよ。……アリガト」
 おねーさんが手を引っ込めようとしたから、ボクはそう言って、おねーさんの手から翡翠を取った。
 礼なんて。アリガトウなんて。
 生まれて初めて言った言葉かも知れない。
 おねーさんと出会ってから、おねーさんにも、オバサンにも、今井にも、今井の母親にも、シンにも、何度か思った感謝の気持ち。言葉にするのは初めてだった。
 おねーさんは驚いていたようだが、すぐに破顔した。おねーさんの中で、ボクは完全に『石好きな男』なんだろうな。