I love you に代わる言葉



 それから二時間近く経った。その時間の九割は、ただ駄弁っていただけだった。と言っても、ボクは殆ど聞き役に徹していたけど。今日初めて言葉を交えたにも関わらず、今井とシンはすっかり意気投合していた。シンは意外とノリがいいらしい。
 残りの一割はテスト勉強に使われた。真面目に勉強したのはシンとボクだけだが。ま、一割程度の時間で真面目も何もないけどね。ボクの鞄には、今日行われたテスト科目の教材しか入っていなかった為、明日行われるテスト科目の教材はシンに見せて貰っていた。
 時刻は十七時をとっくに回っていた。そして、長針が真下を指した頃、玄関扉が開かれる音が微かに耳に届く。ボクと今井は驚いて顔を見合わせるが、シンを見れば顔色一つ変えず教科書に目をやっている。……気のせいか? もしかしたら隣人が帰宅したのかも知れない。
 ――そう思ったのだけど。
 物音が、する。非常に静かなものであるが、施錠する音、階段をトントンと上る音は、確実にこの家の中でする。何より、人の気配がする。
 何なんだこれ。身内が勝手に入ってきたのか? それとも誰か帰宅したのか?
 ボク達は動揺していた。今井もその顔を見れば明らかだ。ボクの背後にある扉の向こうを、戸惑うように見つめている。ボクはひたすら耳を澄ませていた。
 こんこんこんっと。優しく三回ノックされた扉。直後、
「――真?」
 高音過ぎず低音過ぎない優しいアルト調の声が室内に届いた。
 ボクは、いや、ボク等は。
 この声を知っている。
 だけど動揺する心がそれを否定しようとした。が、シンを見れば、教科書をパタンと閉じ、してやったり、と言わんばかりにニヤリと口角を上げながらボクを見た。
 この表情で全てを悟る。扉の向こうにいる人物が、誰であるか。何故、此処に居るのかも。
「アンタ……一人暮らしなんじゃ……」
 ボクはひたすら困惑、動揺していた。
 シンは立ち上がってボクを見下ろすと、ゆっくりと口を開いた。


「――俺は一人暮らしなんて一言も言ってないぜ?」