でも、今は、誰もいないくて、確かにここにはきみとあたしのふたりだけ。

きみの目は、真っ直ぐあたしのことを見ている。


「……真夏、くん」


正直ものすごく照れた。でも、あたしがそう呟いたらふわって花が咲くみたいに浮かぶ笑顔を見て、また余計に頬が熱くなる。

くそ、ずるいな。この綺麗な顔にこの笑顔、ちょっと反則。

なんか今あたしすごい気がするよ。『みんなの宮野真夏くん』の、結構トクベツなとこ、見ちゃってるような。


「あとおれ、部活やってるよ。確かに、あんまり人に言ってないけど」


宮野真夏……真夏くん、が、ゆったりと静かな声で言った。

風が吹く。


「そうなの?」

「今もその最中だし」


うそ、何部なの。

訊こうとする前に、それはきみの声に遮られる。


「空が焼けてきた」


伸ばされた手につられて空を見上げた。高く吹く風の音が空気を揺らしてここまで届く。

低くなった太陽が近い。夕焼けだ。

空が少しずつ色を変えて、昼間の青さを奪っていく。

目の覚めるような青から白へ、オレンジへ、濃紺へ。

沈む日の動きに合わせて、青が、引っ張られるように、あたしの空から消えていく。


「…………」


ぎゅ、と。手のひらを握っていた。

自然と俯いていた顔に、映るのはもう、ところどころが錆びた柵だけ。