【TRIGGER!】



 

 クラブ『パシフィック』。
 繁華街でも最高級と呼ばれるこの店の造りは、外見からして一般人には敷居が高い、超煌びやかなものだった。
 門構え、ドア、電飾・・・あちこちに金色の装飾が施されており、入り口の前にはいかつい顔をした黒いスーツのガードが二人、立っている。
 深夜二時。
 もうそろそろ店の営業が終わろうとしているこの時間、彩香はこの下卑た装飾の店の前にいた。
 すっかり気の緩んだガードがあくびを噛み殺しながら、そんな彩香に気が付く。


「何だお嬢さん、この店に何か用かい」


 低くくぐもった声で、ガードの黒スーツは彩香に声を掛けてくる。


「ホステスの面接なら間に合ってるし、もしそうだとしてもお嬢さん、他の店を当たった方がいいなぁ」


 ガードの仕事は余程暇なのだろう、今宵一番の面白い出来事として、黒スーツは彩香を構い始める。
 彩香は俯いたまま、ゆっくりとタバコに火を点けて。
 ふうっと、煙を夜空に向かって吐き出した。


「あぁ、面接希望ねぇ・・・」


 言いながら、彩香はドアに近付く。
 黒スーツ二人は顔を見合わせて、お互いに首を傾げている。


「そうだなぁ・・・顔くらい、覚えて貰おうか」


 彩香は黒スーツ二人の間に立ち、くわえタバコのまま、ニヤリと笑う。


「峯口彩香、この顔をな!!」


 叫びながら、彩香は一人に回し蹴りを繰り出した。
 黒スーツはたまらずに、その場に倒れる。


「なっ・・・何だテメェ!!」


 奇声を上げる残った一人にも、彩香はふっと懐に潜り込み、全体重をかけてその鳩尾に拳をめり込ませ。
 あっという間に倒れた二人には目もくれず、彩香はクラブ『パシフィック』の両開きのドアを開けた。