峯口はぶんぶんと大きく手を振っている。
 雛子はゆっくりとこちらを振り向いた。
 真っ黒いマントを着ているから、顔だけが月明かりに白く浮き上がって、まるで生首が振り向いたかのように、彩香には見えた。
 そんな事を気にする様子もなく、峯口は雛子に聞く。


「分かったぁー?」
「静かにしろ」


 ピシャリと言われ、峯口は黙る。
 繁華街を取り仕切るとまで言われているこの男・・・もしかしたら雛子には弱いのかも知れない。
 そんな事を思っていると、雛子はこっちに歩いて来た。


「さすが、このあたりまで来ると感覚が研ぎ澄まされるな」
「分かったのか?」
「あぁ、分かった。だが今回は流石に疲れた」


 雛子はそう言って、大袈裟に首をコキコキと鳴らした。
 反対に峯口は、ぎくぅっと身をこわばらせる。
 そんな二人を、彩香は首を傾げ、見つめながら聞いた。


「何の話だよ?」


 ん? と、雛子が彩香に向き直る。
 ヴェールからかろうじて見えている雛子の双眸が、不敵に笑みを携えているのが分かった。


「ひっ・・・雛子ちゃん、疲れているなら肩でも揉みましょうか?」
「いらん」


 雛子は言いながら、峯口に向かって指を一本立てた。
 峯口は、ガックリと項垂れる。


「・・・分かった・・・」


 それを聞くと、雛子は目を細め。


「ここから近い。そうだな・・・“ドア”から西へ・・・二キロ・・・だが用心しろ。そこには狼が牙を剥いて待っている」


 それだけ言うと、雛子は車に戻って行った。


「ぜんっぜん話が見えねぇんだけど」


 彩香はまだ項垂れている峯口に、声を掛ける。


「情報だ。ジョージの居場所」
「はぁぁぁ!?」


 彩香は思わず、その場でズッコケそうになる。
 散々頭がいいとか何とか言っておいて、結局はあの怪しい占い師のお告げが頼りか。


「あんたバカか!?」
「通信手段がねぇんだ、さすがの俺でも探しようがねぇんだよ。それにな、雛子ちゃんのお告げは当たるんだ。必ずな」
「まさかあのお告げ通りにジョージ探しにいけって言うんじゃねぇだろうな?」
「いやそこは行け」


 峯口は真剣に言った。
 嘘だろ、と、彩香は天を仰ぐ。