だがそれも一瞬で、秋田はすぐに営業スマイルを浮かべ。


「すみません社長、他のお客様の予約が無ければ、VIPルームにご案内出来たんですが・・・」
「あー全然問題ないよ。別にコソコソ飲みに来る理由なんてねぇし」


 そっかー、VIPルームも一つ増やせば良かったなぁ、とか、峯口はブツブツ呟いている。
 秋田が去った後、峯口は彩香に向き直り。


「昨日から風間があっちに入った。だからあんまり焦るな」


 ジョージが仕事だと言って出掛けてから、今日でもう丸五日が経っている。
 仕事というのは、どうやら誰かを迎えに行って連れて来る、そんな簡単なものだけではないらしい。
 自分にはまだ何も知らされてはいない。
 このことが、彩香は面白くなかった。


「別に焦ってねぇよ」


 言いながら、彩香は考えを巡らせる。
 そう言えば、峯口建設本社からここまでの運転をしていたのは、風間ではなかった。
 昨日からあっちに行ったとなれば、今回の仕事はジョージ一人では手に余るという事だ。
 全く・・・一体全体何が起きているのか。
 あっちの世界での峯口の本当の仕事というのは、何なのか。
 彩香が軽くため息をついた時、店に新しい客が入って来た。
 それに気付いた峯口は、軽く手を上げる。

 
「待ったか、陽介?」


 そう言ってボックス席に座ったのは、女だった。
 だが、一目見てこの女、普通ではないのが分かる。
 彩香だけではなく、誰が見ても普通じゃないと、一発で分かるだろう。


「雛子ちゃぁん、久しぶり、ぜんっぜん待ってないよ!」


 雛子と呼ばれたこの女、このクソ暑いのに足首までの長さがあるフード付きの真っ黒いマントを羽織り、口元には薄い紫のヴェールをつけている。
 分かるのは声が女だと言う事と、眼光がやたらと鋭い事くらいか。
 しかも、マントの下に何を隠し持っているか分からないようなこの女を、よくまぁ店に入れたものだ。
 まぁた変なのが出て来たよ・・・と、彩香は呆れ顔で天を仰いだ。


「俺の願いを聞いてくれて感謝する。一度会ってみたかったものでな」


 雛子は静かにそう言うと、彩香をじっと見つめた。


「え? あたし?」


 彩香は自分に人差し指を向けて。
 雛子はこくりと頷く。


「安曇雛子だ。よろしくな」


 そう言う雛子の、ヴェールからかろうじて見える眼光は鋭い。


「このちっちゃいのが、雛子ちゃんが会いたがってた峯口彩香だ」


 雛子から視線を外さずに、彩香は軽く頭を下げて峯口に聞く。


「つか誰?」
「お前のマンションの二階で占いの館をしている人だよ。美人だろ?」