夏夜に逢えたら


「身長かあ……私は人それぞれだと思うけど」



率直な意見を口にする。

確かに桜井君は身長高くはないけど、別に高い人じゃなきゃダメってわけでもないのに。

なんて思考を巡らせているとすかさず否定が入った。



「例えば、女の子と2人で歩いてるとして」

「? うん」

「それで俺の方が小さいっていうのは……相手も嫌だと思うし」



桜井君の言ってる条件とは違うけど、この前の背比べを思い出した。

確かに桜井君は私より小さい。でも。



「……私は嫌だなんて思わない」

「え」

「身長だって個性だし、その人に似合ってればいいんじゃないかな」

「……周りに何か言われても?」

「そんなの気にしない!」



――自分の声なのに、自分の声じゃないみたいだった。

『周りに何か言われても?』と訊いた桜井君の顔が、自嘲じみた表情で。

それがたまらなく嫌だった。そんな風に思ってほしくなかった。

なんとかして笑ってほしくて、気づいたら感情を思いっきりぶつけていた。

はっと我に返れば教室の数人が私の方を見ていて、何でもないというように笑って誤魔化す。


……なに、やってるんだろう私……


自分の意見ばかり主張してしまったことに後悔が押し寄せる。

そんな私を救いだしたのは、控えめに笑う優しい声だった。