夏夜に逢えたら


「ふは、一応ね。気持ち程度につけてるよ」

「なんか意外……。髪の毛ふわってさせたいから?」

「ぺたんこなのも微妙だしね。まあ、俺の場合はなんていうか……」

「え?」

「……。少しは身長誤魔化せると思って」

「……」

「……」

「……」

「……あの、何か言ってくれると助かるんだけど」

「っだ、だって、笑っていいのかわからなかったから!」



まさかのカミングアウトにどう反応していいのか迷った。

冗談で言ってるならともかく、桜井君は身長に対してナイーブだ。

そんな彼が身長をネタにするとは思えないし……と、私なりに考えていたのだけど。



「あは、はははっ、そんなに気にしてたのっ?」



本気とネタの区別がつかなくて、結局こみ上げる笑いに負けた。

一応自習中だから声を抑えてはいるけど、なかなか通常状態に戻れない。

そんな私を見た桜井君は恥ずかしそうにワックスをしまった。



「そんなに笑われると思ってなかった……」

「ご、ごめん。あまりにも真剣な顔してたもんで、つい」

「身長に関してはいつだって真剣だよ」



むすっとした顔を頬杖をついた桜井君は、同い年のくせに幼く見えて。

可愛いな、なんて思ってしまったことを言ったら、また拗ねてしまうかもしれない。


それでも初めて会った日より柔らかい雰囲気になって、どこか安心している私もいた。