夏夜に逢えたら


「……あの、桜井君さえよければ私のノート貸そうか?」

「え、いいの?」

「私も適当に書いてる部分多いけど、それでもいいなら」



机の中から数学のノートを出して桜井君に渡す。

「ありがとう」と、言って私のを受け取って開くと、何故か驚いた表情になった。


……もしかして、何か挟まっていたとか?

この前の単元テストの答案用紙じゃ……あのときの点数ひどかったし。


なんとか弁解しようと口を開きかけたら、それより先に桜井君の声が響いた。



「字、すごい綺麗なんだね」

「え、字?」

「うん、習字のお手本みたい」



まさか字のこと、そして誉められるとは思わなくてこっちが驚く。

字に関して言えば小学校まで習字を習っていたので、誉められることは何度かあった。

でもそれは友達や先生に言われることはあっても、男子に言われるとは思ってもいなくて。

二重の意味で驚き、うまく言葉が出てこない。


すると桜井君が「俺字下手なんだよね……」と、笑いながら自分のノートを見せてくれた。

それが意外と、というか確かにうまくはなくて、自然と笑みが漏れてしまった。



「っあはは、え、なんか意外だね。字上手そうなのに」

「これが現実なんだよね。自分の字見るたびに悲しくなる」

「でも自分の名前とかは上手に書けるんじゃないの?」

「いや、全然」

「試しにこれに書いてみてよ!」



桜井君の苦手分野を発見したことに面白くなってきて、いらないプリントを机から出す。

それを彼と私の真ん中、お互いの机の合わさってる部分に置く。

最初は渋っていた桜井君も観念したのか、身体を寄せて紙にペンを走らせた。