夏夜に逢えたら


というより、その光景を想像した瞬間、すごく嫌な気持ちになった。

桜井君が女の子と歩いてる姿。

……私じゃない、誰かと楽しそうに笑ってる姿。

実際に見たわけでもないのにどんどん気持ちが沈んでいって、言葉が出てこない。



「……相原?」



急に黙ってしまった私を心配そうに覗き込む桜井君。

どうしよう、何か言わなきゃ。

桜井君が自分より身長の高い女の子と歩いてても、何とも思わないって。

だから周りに何か言われるんじゃないかって気にしなくても大丈夫だよって。


……そう言いたいのに、どうして。


嫌な気持ちを押し殺すためにぐっと唇を噛みしめる。

必死に感情を隅に追いやり、なんとか笑顔を向けた。



「ご、ごめん。その、うまく言葉が出てこなくて」

「……気遣わせたよね、俺こそごめん」

「そ、そうじゃない!あの、なんていうか、桜井君が女の子と歩いてる姿を想像したらなんか……」

「え?」



完全にいらない部分を暴露してしまった。

ああもう、なんでこんなこと口走ってるの私!

自分に苛々していると私の言葉を勘違いしたらしい桜井君がああ、と声を上げた。



「そっか、俺が女の子と歩いてるなんてないもんね」



想像してもおかしくなるよね、と納得したように頷く。

全く違う内容に否定したかったけど、これ以上ややこしくなるのも嫌なので黙っておく。

桜井君ごめん……と心で謝罪していると。



「女の子の話す相手って相原くらいなのにね」

「……え」

「自分で言うのもなんだけど、その……俺、人見知りっていうか」