夏夜に逢えたら


「あ……」



手の甲を口に当てて笑う桜井君。

その隙間から八重歯が見えて、何故か安心してしまう。

……この前もそう思ったけど、どうしてだろう。



「ごめん、相原とクラスの反応が面白くて笑っちゃった」

「ていうかもう笑い飛ばしてくださって結構ですので」

「違う。めちゃくちゃ嬉しかった」



え、と視線を彼と合わせると、声と同じ優しい表情をしていた。

そしてどこかホッとしているように見えたのは、私の錯覚だろうか。



「そんなこと言ってくれるなんて思わなかった。ていうか、初めて言われた」



午後の眩しい太陽が桜井君を照らす。

透き通るほど白い肌は、太陽の光でクリアに見えた。

その光の中で笑う彼は相変わらず儚く見えてしまって、どこかに行ってしまいそうで。

ブレザーの裾を掴もうとして、ぐっと拳を握りしめた。



「しかもこんなくだらない相談に、真剣に答えてくれてさ」

「っ、くだらなくないよ。それに、私は本気でそう思ってる」

「え?」

「仮に私の横を歩く人が自分より身長が低くても気にしないし、」

「……うん」

「桜井君が自分より身長の高い女の子と歩いてても――、」



そこまで言いかけて、続きを言うのが苦しくなってしまった。