部屋のベッドの上に蹲って、何をするでもなく只管意識を遠ざける。食後直ぐに寝るのはよくないから、起きていないといけないのだけど、何もしたくないし考えたくもない。

 中空を彷徨う意識がふと戻って来た時にはもう夜十時を過ぎていて、健康的な生活習慣の妹は、普段ならとうに寝ている時間。

 一つ息を吐いて乾いた喉を潤しにキッチンまで行こうと部屋を出た。どこかの部屋のドアの隙間から、明かりが零れている。――リビングだ、お母さんだろうか。

 違った。いや、確かにそこにはお母さんもいたのだけど、それだけでなく。聞こえてきた声に、私は思わず鳴りを静める。


「気にしないでいいんだよ。もう寝なさい」

「気にするよ…っ絶対お姉ちゃん、私のこと嫌いなんだ」


 呼吸が止まるかと思った。私の、話。立ち聞きなんてと自分でも思うけれど、足が竦んで動かない。

 漫画や小説の主人公が言い訳のようにそんなつもりじゃなかったと言うシーンを今まで何度も見てきたけど、本当のことだったのだと漸く知った。まさか、こんな形で知ることになるとは思わなかったけれど。


「何が不満なんだろうねぇ…もう十分好きにさせてあげてるのに」


 レイピアのように、胸に突き刺さった言葉。傷みを超えた衝撃。

 あぁ、涙が、涙が溢れる。


 助けて、誰か私を、ここから助け出して。