そこに書いてあった言葉。「その意味じゃないよ」――背筋が凍る感覚。肌が粟立って、一瞬身体が震えた。


「美波?」

「あぁ、ごめん…分かんないや」


 苦笑を浮かべて謝れば、じゃぁ捨てておくから、と私の手元からお母さんの手に戻った葉は、そのままごみ箱に。本当にどうでもいいんだな、と思いながらもいつもの自分の椅子に座った。


「あれ?今日はお父さんは?」

「会社の飲み会だって。折角のステーキが固くなっちゃうって言ったんだけど、今日は珍しく苦手な人が用事があって来ないから、って」


 何とも酷い理由だ、だけど気持ちは分からないでもない。そっかぁ、なんて笑いながらお母さんが座るのを待って、三人で手を合わせた。

 うちでは食事の時にテレビはつけない。家族での会話を大事にしたい、だとか何とか昔お母さんが言っていた気がする。

 今日の話題は、妹と同じピアノ教室に通う友達のこと。そこから、今度その子と遊びに行くから、お小遣いをもらっていいか、なんて。

 じゃぁ日付が決まったら言ってね、と笑うお母さん。チクリ、胸が痛んだ。


「……ご馳走様でした」


 一足早く食べ終わった私は、手を合わせて自分の食器を片して、直ぐに部屋に戻った。居た堪れない。