「そりゃ、配達先の住所の入力とかあるしね。……ごめん、それは教えられないから」


 彼の説明に、成程、とあっさり納得する。住所が分かり帰り方が見つかれば、逃げられてしまうかもしれないという考えのようだ。

 しかしそれは一方で、彼には腕ずくで私をここに閉じ込める気はない、ということになる。もしその気なら、現在地くらい知られたところでどうということはない。


「……決まったよ」


 誰に見せるでもないとはいえ、私にだってそれなりに、好みというものがある。様々なデザインの溢れるサイトの中から選りすぐった三組、それは届くのが楽しみだとはっきり言えるもの。

 しかし一方で、要は自分の趣味全開とも言えるデザインを彼に見られるのは、恥ずかしくもあった。あくまでも不可抗力だと理解はしているが、それとこれとは別。

 流石にその辺りは気遣ってくれたのか、私の選んだ下着について、彼は一切触れなかった。よかったと言えばよかったのだが、何だか逆に妙な不安もある。

 見せる意図がある訳ではないのだから、彼の好みに合わせる義理もその他の理由もない。とはいえ彼の好み、もしくは私へのイメージとあまりに離れていたら。

 奇を衒ったデザインでもなければ、やたら色っぽい配色でもない。冷静に見ればごく一般的な、女の子らしいものだと思う。思う――のだが、こうあっては不安が拭いきれないのが人間というものだ。


「あの……芹人」


 注文を終えたのかノートパソコンを閉じた彼に、おずおずと声を掛ける。そこまではいいのだが、果てさてどう切りだしたものか。

 目を泳がせつつおろおろと手を遊ばせていると、予想の斜め上を行く台詞を吐かれた。そう、どうあっても私は、忘れてはならない。


「D70だったんだね、覚えておかないと」


 大前提として、この男は、私の“ストーカー”なのだ。