内臓がひっくり返りそうな、痙攣を必死に耐え忍ぶような、嫌な感覚。…覚えがある。上り詰める、酸の臭い。


「……っ」


 まさか、それより前から鼻につくなんて。自分でも嫌になる、最近は軽くなっていたのに。

 突然空気が冷えたような気分で、震える肩を自分の両手で支えた。

 おかしく、なりそう。


「もしかして、吐きそう?」


 異変を察した彼が、私に問う。動かしたくない頭をゆっくり縦に動かして肯定すれば、彼はリビングに立つ。

 ビニール袋を一つ持って、戻ってきた彼。それを受け取って、身構えて。その時まで、あまり時間は食わなかった。


 背中を摩る手がやたら温かくて。摩擦熱なのか体温なのか、はたまたそのどちらもか。


「……量、多かったかな」


 朝食のことを言っているのだろう。確かにそれは否定しないが、直接的な原因は、別のところにある。

 慌てて首を横に振ると、逆にますます心配そうな表情を向けられた。……やめて、欲しい。

 ねぇ、迷惑なんて、掛けないから。今度は頑張ってみるから、お願い。


「大丈夫」


 酸の臭いが、鼻につく。

 喉が、心が、カラカラになっていく。


「換気、しよう……?」


 全身の筋肉に力を込めた直後のぐったりした身体を引っ張り上げ、私は窓に手を伸ばした。