「……な、何を…」

「あぁ駄目だよ、ちゃんと表情キープしないと。でもこれもこれでありか……」


 少々常軌を逸しつつあるその表情に、漸くその意を悟った。

 誰がこんな表情を撮られて嬉しいものかと思う反面、心のどこかにほんの僅か、矛盾した感情が染みを作っている。

 此方に向けられたデジカメのレンズ、表情筋が動かないように、視線が彷徨わないように気を付けて、シャッター音を待った。


「……よし。このくらいでいいか」


 凡そ十回ほどシャッターが切られただろうか。最後の辺りは既に、頬の辺りがプルプル引き攣っていた。

 写真撮影とはこれ程までに疲れるものだったろうか。記憶を掘り返してみても、特に思い当たる節はない。


「…ねぇ」


 ふと浮かんだ疑問。ぶつけてみる価値は、あるだろうか。返答を得ないことには、その答えも出せない。

 取るもの取り敢えずといった心持ちで、軽くその疑問を口にしてみる。


「何で私なの?」


 この部屋に貼られた写真は全て、私が映ったもの。つまり、表現は過剰かも知れないが、彼は他の誰でもなく、私を追っていたということになる。

 それが理解出来ない。可愛い子ならこの世にごまんと溢れているし、正直この人の顔には見覚えすらない。一体何故。