つい数秒前まで私の死を願った彼は、既に私から手を離している。批判の色を含んだ視線に刺され、困惑のままにその顔を見返した。

 彼なんかより私の方がずっと、目の前の相手に不満を抱いている。一瞬抱いた仄かな期待を、あっさり無碍にされた。


「君、自分の状況分かってるよね?」

「……そこまで馬鹿じゃない」


 幾ら私があの子より劣っていようと、足らぬものが多かろうと、流石に自分の置かれた状況くらいは理解しているつもりだ。


 突然あの時途切れた思考は、恐らく麻酔薬でも嗅がされたためだろう。

 そして今いる場所に全く覚えがなく、身体の自由さえ奪われているところから、自分は浚われ監禁されているのだと考えるのが妥当。


「――違う?」


 以上のことを、淀みも無くつらつらと述べてみせれば、大事なのはそこじゃなくて、と再び彼は口を開いた。

 抑えているのだろうけれど、それでも声色から苛立ちが伝わる。


「君は殺されそうになったんだよ。普通抵抗するでしょ」


 …矛盾している。わざわざ私の手足を縛ってまで身動きを取れないようにしたのは、この人本人だ。

 しかし、それを口にするより先に、自分自身に一つ問うた。


 もし私の手足が自由だったら、抵抗しただろうか。