「何なの、これ」

「君のこと遠くから撮ってるうちに、数が増えちゃってね。家のプリンターで印刷したはいいけど、アルバムにも入り切らないから、壁に貼っちゃったんだよ」


 吃驚した?そう言って笑うその男は、見た目だけなら、どこにでもいそうな平凡な人。だから余計に驚いているのかもしれない。

 ストーカー、誘拐、そんな言葉が頭を過る。物騒な世の中、分かってはいたけれど、まさか自分がそれを示す材料になるとは思っていなかった。

 普通なら、ここで感じるのは恐怖なのだろう。だけど私は違った。やっぱり私はおかしいんだ、そう実感することになろうとも。


「早速だけど、…美波ちゃん」


 私に近づく男。その瞳の奥に、狂気を見ても。


「死んで、くれるかな」


 その台詞に不似合いな、穏やかな笑みを湛えて、彼は言った。


 首に掛かる手、……全く怖くないと言ったら、嘘になる。けれど、それ以上に、何よりも。


「……何で、抵抗しないの?」


 安堵が大きかったなんて、人に言えようか。