手をぎゅっと繋いでまた2人で歩く。
きっと、ママが私を探してる。


早く行かなきゃ、ママのところに。



それで、ママに言うの。
お兄ちゃんが私を助けてくれたよって。
お花の指輪もくれたよって。




お兄ちゃんのこと、



———…大好きになったよって。



早くママに会いたくて、公園が見えた
瞬間私は走り出した。……けど。



「……お兄ちゃん?」



ぱっと離された右手を見る。
少し先にいる私は後ろを振り返った。


『……ごめんね。俺はここまでだ』


「どうして?行こうよ、お兄ちゃん」


もう1度右手を出しても、お兄ちゃんは
静かに首を横に振るだけだった。


わけがわからずそこに立ち尽くす私に
ゆっくりと近付いてきたお兄ちゃんは、
私と目線を合わせるように屈んだ。



『君にお願いがあるんだ』


「おね…がい?」


『うん。手、出してくれる?』


言われた通りに私は両手を前に出す。


『これを…君のママに渡して欲しい』


両手に乗せられたもの。それは…———。



「おてがみ…?」



一通の真っ白いお手紙だった。



「これ、なにも書いてないよぉ?」


『いいんだ、それで』


ふわっと笑うお兄ちゃんのお願いを叶えてあげたいって思ったから、私はその手紙を大切にぎゅっと胸に抱いた。


「わかった!ママにおてがみ渡す!」


任せて、お兄ちゃん。
ちゃんと、ちゃんとママに渡すよ。



『ありがとう』



頭を撫でてくれるこの優しい手は、
やっぱりママに似ているって思った。



『…………か、……いちかーー……っ』






『ほら、ママが呼んでいるよ』







『————…いちかちゃん』




「………うん……」


『そんな悲しい顔しないで?俺は君の
笑った顔が好きだよ』



私も、私もお兄ちゃんの笑った顔が
大好きだよ。



でも、きっと。



お兄ちゃんと会えるのは、
(———…これが最後なんだね)



「お兄ちゃん、ありがとう。私ちゃんと
ママにごめんなさいするね。お花の指輪
も大切にする」


『うん』



「いちか、お兄ちゃんのこと





本当に大好きだよ」







『うん、俺も』



お兄ちゃんの首にあるネックレスが
きらりと輝いた。



とびっきりの笑顔でさようならをしよう。
このお別れは、悲しいものじゃないから。






Dear…愛した人へ。