シーソーゲーム

 やはり奇跡が奇跡を呼んだのだろうと納得し、今度は氷野を水飲みに行こうと誘おうと思った。もう小海を誘うのは、内心で拒絶反応を示していて、誘うには俺の勇気が今までより百倍必要だった。

 そういうことで、俺は氷野を誘った。運がよく、小海は遠く離れている場所で水崎と話していた。氷野は俺のそばで一人いた。どうやらアリを眺めていたらしい。目先にはアリの行列があった。

「お前、アリ好きだったっけ?」

「いや、別に。それよりさ、水飲みに行こうぜ」

 相手から誘われるなんて、こんな都合のいいことは今日初めてだ。

 これからいいことが起きるだろうと俺は残りの今日を楽しもうと思った。

「いやー、さすがに一試合あけて水飲まないとしんどいわー」

「そりゃそうだ。水分補給はこまめに、だろ」

「そうだな。飲みゃーよかったな。試合中さ、のどが渇いて死にそうだったしな」

 俺たちは水飲み場に来た。

 嫌な場所だ。無償にここからいち早く撤退したい。小海のこともあって、もう嫌になった。もしかしたらまだあるのではとまだ見えぬ敵から警戒を解いてはいなかった。

 しかしその敵は確かに見えないもので、突然やってきた。

「なあ、リョウ。お前、オミに何か言われたのか」

 本当に突然だった。まだ水を飲むであろうと思っていたので、その上警戒を張っていたので、近い敵にはまったく反応が出来なかった。

 今度は氷野か、まさか氷野がと俺はどうすることも出来なかった。

「…図星か…あの野郎、早えな」

 氷野は爪を噛み、悔しそうな顔をしていた。

「まだそんな時期じゃ…早すぎるだろ…まだ、心の準備があるんじゃねえかよ…順番が狂っちまう…どうすれば…」

 さっきからわけの分からないことを並べているが、俺には到底理解できないことだ。

 氷野の独り言はしばらくすると、クソッの連呼に変わった。

 やはりここはあまりよくないところだ。汚れを洗い流すところではなく、逆に汚染されてしまう。雰囲気に飲まれるのではない。この場所が外からは誰にも見えない異空間に思えてしょうがなかった。