シーソーゲーム

 矛盾や疑問は俺を興奮から遠ざけようとして、逆に近づけさせているかもしれない。不思議だった。小海の変貌は恐かった。人はあんなに変われるものなのか。アズサの変貌と重ね合わせても、明らかに格段違う。怒りと怨みからなる、像が作られているようであった。まさに自分が被害でもあったような、いや、先祖の怒りを引き継いできたような、積もりに積もった怒りを面に出していた。

 初めて見た小海の人格に、ただ立ち尽くすことしか出来なかった。

「どうした、リョウ。次の試合始まるぞ」

 氷野の声に我に返れると思った。だがまだ頭に残る小海の言葉。おれはそれから逃げることが出来なかった。患いより酷いものだった。


 次の試合も勝った。十五点差のコールドだ。

 相手はさほどマークするようなチームでもなかったが、悪いチームではない。しかし野球経験者不足が効いたのか、そのせいで大差がついてしまった。

 また俺は試合の途中でアズサに忠告をしようとしたが、まだ俺には声をかける勇気がなかった。まして試合にも集中していなかった。できなかった。

 小海は何もなかったように声をかけ、普通に野球をやっていた。消えたとき、どこへ行ったのかと思ったが、あれは思い過ごしだろう。しばらくボーっとでもしてしまったのだろう。

 そう思うことでしか自分を取り直すことができなかった。

 すべてが上手くいかなくなっているようで、俺は何もかもを放棄したい気持ちになった。すべてを捨てて一つを得たい。そういう気持ちになった。

 そんな時、俺の心は岸に支えられていた。

「リョウ君。また捕っちゃったよ」

 そう。今回の試合のウィニングボールも岸が捕ったのだった。もうないと思う奇跡を二回も起こした。

 野球において、ラッキーボーイと言われる人が三人いれば、試合は必ず勝つらしい。それが我がチームには一人しかいない。それが岸だった。今までやったことのない野球で捕球を二回もするなんて、普通はない。どっちかは落としてしまうはずである。いや両方とも落とすだろう。何と言ったってまだ初心者だ。こんなに早く上手くなれるなら苦労しない。それに打撃はまったくだめだ。