シーソーゲーム

 強靭な足腰が必要とされるアンダースローをいつ身につけたのか。それにこの球速はさすがに出ないと思う。アンダースローであるからというわけではない。俺だってこんな球は投げられない。肩やひじの負担も大きい。下手したら助骨にひびが入る。

「知ってるよ」

 意外な返答だ。えっとか、ウソとか、もっと動揺するかと思った。

「いいのか、それで。俺が投げてもいいんだぞ」

「別に構わないけど。なんで?」

 俺にとっては人事なのだが、この言葉にはさすがにカチンと来た。

「お前さ、もっと自分に誇りとかないのかよ。もっと自分を大切にしたほうがいいぜ」

 女としての誇り、プライド。自身の体の健康。すべての意味をこの言葉にこめたつもりなのだが、はたしてアズサは分かってくれるのか。

「…いいよ。別に」

 アズサはベンチに戻り、イスに座った。

「そうか…」

 アズサには聞こえないと思う。独り言で俺はそうつぶやいた。別に悔しかったわけではない。あいつが決めたことだから帰る理由なんてない。やりたいならやればいいさ。気付くまで、一人で考えているほうがためになる。

 小海はもう素振りをしている。俺はその姿を見て、ああ、そうかと思う。俺は二番バッターだ。準備をしたほうがいいだろう。

 俺たちの攻撃。やはり相手ピッチャーは野球部のエースであるので、球が速い。小海は当てることができず、セカンドゴロ。無理もないだろう。当てただけでもすごい。俺なんかじゃ到底、話にならないだろう。

 どうでもいいかなと思いながら、指示を仰ぐためではなく、一度ベンチを見た。アズサは俺から目をそらして、相手のピッチャーのほうを見た。

 一息ついて、呼吸を整えながらバッターボックスに入り、アズサがこちらを見るのを待った。だが目さえもこちらを見ず、こちらを見まいとの必死ささえ感じられた。