シーソーゲーム

 アズサは澁とブルペンでただキャッチボールをしながら、負けるわけがないというどこから出てくるこの自信のオーラを出していた。

「本当にお前が投げるのか」

「そうだよ」

「面目ない。俺が突き指したから…」

 ベンチで氷野がすまなそうな顔をしている。だがすまなそうな顔をしているだけで、明らかに恥ずかしそうであった。なぜそんな顔をするのか。多分、突き指の仕方がよっぽど恥ずかしいものだったのだろう。

「気にするな。怪我なんて誰でもあるさ」

 そう言ったのはスタメンでは出ない水崎であった。

 水崎は現在、野球部のマネージャーで、氷野と小海とつるんでいる。こちらも同じ中学校で、アズサと同じように人気があった。そのわけは、やはり抜群のスタイルと、やや男勝りであるゆえの付き合いやすさ。しかしその水崎も、一度だけだが、とんでもない女子らしさを目の前で見たことがある。それは甘えでなく、可愛らしさがあった。中学の頃、ほっぺについた生クリームを指にとってその指を口にくわえた時、さすがに俺も胸がドキドキしたね。その上、上目使いが可愛らしさをいっそ増させたのだ。

「ほら、頑張ってきな。ね」

「ああ…」

 氷野はまだ照れを隠しきれないようで、水崎の目を見ることができないようだ。

「もう、元気出せって」

「分かってるって、クレハ」

 ベンチの上に置いていあるグローブを持って、ベンチに座り込んでいじり始めた。水崎は俺を見て、どうしようもない顔をしてだめだこりゃ、とジェスチャーをした。

 そうじゃないんだけどなあ。クレハは氷野を分かっていない。