シーソーゲーム

 開会式が終わり、皆は各競技場へと散っていった。

 俺は振り向き、アズサが俺の背中を見ていたように見えた。目の高さがそこだった。そしてアズサは俺の顔を見た。

「何かようか。話って何だ?」

「んー。今日はね、私が投げることになったから」

「え、投げるって?」

 投げるという言葉で連想はできていたが、まさかという心がそう言わせた。俺はきっときょとんとした顔をしていることだろう。こいつは何を言っているのか。わがままにもほどがある。

 俺がそう思った時、アズサはその答えを言うかのように言った。

「ヒノキが怪我したんだって。多分突き指だと思うけど。他にも投げれる人がいないからさ」

 そうかと納得しつつも、今更アズサに何ができるというのか。確かに小学校の頃はピッチャーをやっていたが、投げなくなってしばらくした時には、すでに女投げになっていた。アズサ以外で他に投げれるやつがいないなら、俺だっていい。アズサよりかはマシかもしれない。

「それだったら俺が…」

「だーいじょうぶだって。どうにかなるっしょ。気にするな」

 アズサはまるで俺の話す手順を知っているようであった。それは幼馴染であったからというのもあるのかもしれない。もう気持ちよりも、パターンを知っている。俺だって、ある程度ならミズキやアズサの怒る手順なんかを知っている。きっとアズサもそんなのと同じなのだろう。

 とりあえずそういうわけで、アズサはピッチャーをすることになった。本当になったかは分からないが、多分そうなるであろうという勝手な予想だ。

「リョウ、行こうぜ」

 ミズキは俺の後方から声をかけた。

「ああ。じゃ、アズサ、行くぞ」

 そう言った時には、もうすでに先導していた。俺の手を引っ張って、先に進んだ。

「ほら、こっち」

 ミズキは俺の後についてきていたが、表情はどうにもさっきとは違い、楽しそうではなかった。さっきまでは球技大会を楽しみにしているようであった。

 空は晴れて、すがすがしい風がこのグラウンド上とは対照的に、はるか上空を舞っているようであった。