アズサの言った言葉のとおり、俺は素直にそう思った。俺は一人で、今までの記憶で確かに岸と会うのは今日で始めてだ。それは誰が言おうと言い換えることができないし、記憶も組み替えることができないはずだ。ましてそんなことができるやつがいたら、ぜひとも家の和室に飾っておきたい。
俺は何も言えずに、ぽかんと口を開けていた。何も言うことができなかった。喉は渇いていた。お茶を流し込みたかった。苦いわけじゃない。金縛りにでも遭ったような、一時の全身麻痺的なものだ。
時計の音が聞こえた。その間、俺は考える時間をもらったような気がする。何を言えばいいのか。この状況をどう脱するか。やはりこれは好機ではなく、破滅への序章だったようだ。
「もう、暗いね。そろそろ帰ったら」
アズサは言った。その言葉を聞いたとき、ホッとしたが、逆に何だか寂しくなった。
ああ、と適当な答えをし、まだ飲み終えていないコップを机の上に置いた。帰ろうとしてお尻を持ち上げようとしたが、さっきから気になっていた、この家の状況についてを、この状況でないほうがよかったが、ぜひとも聞きたかった。不審だった。きれいな玄関には、俺とアズサの二足の靴だけだったのだ。
あとはどう聞き出すかだけなのだが、それは考えてもしょうがないことかと思った。
「そういえばさ。今日はおばさんいないけど、どうした」
これでよかったのか。俺はアズサを直視できないでいたものの、アズサも俺を見ないでうつむいていた。何か言いづらかったのか、声はこもっていた。
「今はね…そう、単身赴任してるの。今はたまたま母さんもついていって…そうだから、大丈夫。気にしないで」
「そうか。お兄さんは」
何気ない質問だったが、アズサにとっては首を絞めるような一撃だったようだ。表情を見れば歴然だ。苦しんでいるというより、眉間にしわを寄せ、考えているような表情だった。
「兄さんは…仕事よ。就職して福岡のほうまで行っちゃった」
まだ言っていなかったが、アズサには兄がいる。五歳年上の兄だ。去年までは大学を無事卒業して、就職活動だけをしていた。結局その年は就職できなかったが、今年はどうやらできたらしい。
俺は何も言えずに、ぽかんと口を開けていた。何も言うことができなかった。喉は渇いていた。お茶を流し込みたかった。苦いわけじゃない。金縛りにでも遭ったような、一時の全身麻痺的なものだ。
時計の音が聞こえた。その間、俺は考える時間をもらったような気がする。何を言えばいいのか。この状況をどう脱するか。やはりこれは好機ではなく、破滅への序章だったようだ。
「もう、暗いね。そろそろ帰ったら」
アズサは言った。その言葉を聞いたとき、ホッとしたが、逆に何だか寂しくなった。
ああ、と適当な答えをし、まだ飲み終えていないコップを机の上に置いた。帰ろうとしてお尻を持ち上げようとしたが、さっきから気になっていた、この家の状況についてを、この状況でないほうがよかったが、ぜひとも聞きたかった。不審だった。きれいな玄関には、俺とアズサの二足の靴だけだったのだ。
あとはどう聞き出すかだけなのだが、それは考えてもしょうがないことかと思った。
「そういえばさ。今日はおばさんいないけど、どうした」
これでよかったのか。俺はアズサを直視できないでいたものの、アズサも俺を見ないでうつむいていた。何か言いづらかったのか、声はこもっていた。
「今はね…そう、単身赴任してるの。今はたまたま母さんもついていって…そうだから、大丈夫。気にしないで」
「そうか。お兄さんは」
何気ない質問だったが、アズサにとっては首を絞めるような一撃だったようだ。表情を見れば歴然だ。苦しんでいるというより、眉間にしわを寄せ、考えているような表情だった。
「兄さんは…仕事よ。就職して福岡のほうまで行っちゃった」
まだ言っていなかったが、アズサには兄がいる。五歳年上の兄だ。去年までは大学を無事卒業して、就職活動だけをしていた。結局その年は就職できなかったが、今年はどうやらできたらしい。



