アズサは特に俺に何の指示もせず、マンションに入った。そこは広くきれいな空間で、つい最近作られたような防犯セキュリティがある。自分の家の部屋番号を押して、部屋のカギをさす。扉は開いた。アズサはさらに奥へ歩き、俺は例のごとくついて行くしかなかった。
エレベーターの空間ほど息苦しいものはなかった。唯一アズサが俺を誘った空間がそこなのだが、今日限りで閉所恐怖症になる思いだ。何もない沈黙。重い空気。俺には耐えられない。水の中で息を止めるのと比べると、はるかにそっちのほうが楽だと分かる。緊迫と消沈した空気の重圧に押しつぶされるのだ。誰が喜ぶか。エレベーターの中では息を止めていた。着くまでの時間が、無駄に長く感じられた。
ついにエレベーターのドアが開いた。俺の脇の下、額、首筋には限りない汗が噴出している。アズサは早足でエレベーターを出た。俺は気付かれないように、新鮮な空気で深呼吸をした。
部屋のドアを開け、中に入る。その人の家の独特のにおいというものはあるものの、アズサの家ほど慣れた家はない。もう我が家と同然だ。しかし、今日は違った。玄関がきれいになっていたせいのか、部屋の模様替えがしてあったせいなのか、俺は気付かない。
リビングにある見慣れたイスはなかった。ソファーに変わっていたのだ。真っ白なソファーだ。開放感のあるガラスは変わっていなかったが、汚れ一つさえなかったのが気になった。窓の向こうの世界は点々と灯火があり、空は鏡となっていた。
「座って」
そういえばアズサの言葉は教室からまだ三回しか聞いていない。俺は一回しか開けていない。不思議だ。不思議といえば、このしんみりとした空気は、本来この部屋にはないはずだ。もっと明るく、平穏すぎる空気があった。はっきり言って似合わないで言い切れる。なにやらこの家庭は切羽詰った状況に直面しているのだろうか。
アズサに言われたとおり、ソファーに座った。深々とは座れなかった。この場所で何が起こったのか、俺は知りたくなかった。
それから何分も経っていないだろう。外の闇が時間を早まらせた。時計の針の音がやけにはっきりと聞こえる。遠くからクラクションの音も聞こえる。風は吹いていない。やがてそれらの音は遠退き、入れ替わってアズサがお茶を持ってリビングに入った。
エレベーターの空間ほど息苦しいものはなかった。唯一アズサが俺を誘った空間がそこなのだが、今日限りで閉所恐怖症になる思いだ。何もない沈黙。重い空気。俺には耐えられない。水の中で息を止めるのと比べると、はるかにそっちのほうが楽だと分かる。緊迫と消沈した空気の重圧に押しつぶされるのだ。誰が喜ぶか。エレベーターの中では息を止めていた。着くまでの時間が、無駄に長く感じられた。
ついにエレベーターのドアが開いた。俺の脇の下、額、首筋には限りない汗が噴出している。アズサは早足でエレベーターを出た。俺は気付かれないように、新鮮な空気で深呼吸をした。
部屋のドアを開け、中に入る。その人の家の独特のにおいというものはあるものの、アズサの家ほど慣れた家はない。もう我が家と同然だ。しかし、今日は違った。玄関がきれいになっていたせいのか、部屋の模様替えがしてあったせいなのか、俺は気付かない。
リビングにある見慣れたイスはなかった。ソファーに変わっていたのだ。真っ白なソファーだ。開放感のあるガラスは変わっていなかったが、汚れ一つさえなかったのが気になった。窓の向こうの世界は点々と灯火があり、空は鏡となっていた。
「座って」
そういえばアズサの言葉は教室からまだ三回しか聞いていない。俺は一回しか開けていない。不思議だ。不思議といえば、このしんみりとした空気は、本来この部屋にはないはずだ。もっと明るく、平穏すぎる空気があった。はっきり言って似合わないで言い切れる。なにやらこの家庭は切羽詰った状況に直面しているのだろうか。
アズサに言われたとおり、ソファーに座った。深々とは座れなかった。この場所で何が起こったのか、俺は知りたくなかった。
それから何分も経っていないだろう。外の闇が時間を早まらせた。時計の針の音がやけにはっきりと聞こえる。遠くからクラクションの音も聞こえる。風は吹いていない。やがてそれらの音は遠退き、入れ替わってアズサがお茶を持ってリビングに入った。



