シーソーゲーム

 まだつんとしているようだが、とりあえず話せる範囲での怒りなので助かった。しかしミズキは用事があるとさっさと帰ってしまうし、二人で帰るのかと肩を落とす思いであった。どうやってこの状況を脱するか。すでに頭の中ではそんなことを考えている。

 アズサは無言で歩き出した。俺はその後を、砂浜に残された足跡を踏むように歩いた。自転車置き場まで来た。自転車に乗った。アズサの横に並ぼうとした。アズサは前へ行った。俺は結局、アズサの後ろをキープすることしかできなかった。ついに公園の前まで通りかかった。教室からここまで、まだ何も話していない。あと少しで俺の家だ。

 俺は何か話せねばと口を開けたが、何も出なかった。考えたが、喉がからからということではなく、喉を突かなかった。麻痺していたというわけではない。勇気がなかっただけだった。

 公園を通り過ぎ、影は俺の先を行った。

 すると、思いがけないことが起こった。アズサの口がついに開いたのだった。

「ついて来て」

 これは果たして脱のチャンスなのか。もしいるなら、神様に感謝したい。今だったら何だって信じられる。これからの展開がいい方向に向かえばそれでいい。とりあえず、これからのことをシミュレーションするのではなく、祈ることだけをした。

 これからどこへ連れて行かれるのか。それだけは想像できた。

 しかしアズサについていく道は見覚えがあり、よく通った。これはもしやと思うと、予想通りだった。思ったところで曲がり、思ったところで自転車を降りた。住宅街の中でひときわ目立つマンション。アズサの家だ。アズサは自転車を止め、俺もいつも止めているところに止めた。

 アズサの家はよく来ていた。さすが幼馴染といえるぐらいだ。俺の家とアズサの家を、俺たちはよく行き来していた。一日に何回もだ。しかし最近、行ったためしがない。あれは、高一に春が最後であろうか。高校に入学したと、アズサとミズキとで小さなパーティのようなものをした。それっきりだ。このマンションの前まで来たのも、それ以来だ。