シーソーゲーム

 そしていつしかは、勝手に体が動き、コンポに手が伸びるのであった。シャッフルで流れる曲は、ジャーニーのドントストップビリーヴィン。結構お気に入りの曲だ。昔を思い起こさせてくれそうな懐かしさと、これから未来に向けての励ましになっている。中学の頃よく聞いたのを、今でもはっきりと覚えている。

 すると俺のポケットで携帯が震えた。俺はすぐに携帯を手に取り、着信がアズサからであるのが分かった。

「もしもし、アズサ?」

 次の瞬間、俺は息を飲んだ。さっきまでのアズサとはまったく違ったからだ。

「…リョウ?ちょっと、今日あったこと、教えて欲しいんだけど…」

 その声は恐ろしく落ち着いていて、聞いただけで身震いがした。今までこんなことはなかった。そんなことより、今日のことを教えてほしいって何だ。もう今日のことを忘れたというのか。俺はさっき思い返していたこところだった。俺の頭にはいろんなことが駆け巡った。

 しかし、俺は素直にアズサの言葉に沿って返した。アズサは熱心に俺の言葉を聞いているようだが、適当に聞いているような気がした。適当に相槌を打っているようにも思えたからだ。

「ありがと、リョウ…ミズキ、元気してる?」

 またまた変なことを言い出した。今日のミズキを見ていないとでも言うのか。

「あ、ああ、元気だ」

「そう、じゃ、明日、学校で」

 そう言ってアズサはすぐさま電話を切った。俺の心には不安と不思議が隣り合わせにあった。電話をかけてきた理由や目的も何も分からないままだった。自分が問い詰めようともしなかったのだから当然のことであるが、さっきは自分の頭では考えられないほど驚いていたのだ。緊張して声が出ないのと同じ原理だと思う。