八月十日午前八時
京介は海老名市にある早苗の自宅へ向かった。助手席には昨日めでたく試験に合格した圭吾の姿もある。初仕事がいきなりスリリングな事件ときたのでその様子は誰が見ても嬉しそうだった。
「楽しみですね。いきなり犯罪絡みなんて」
「ああ。僕もかなり興奮してるよ。こんな依頼は滅多に無いからね」
「でも早苗さんの思い違いってことはないですか?拳銃が護身用だったとか」
「護身用なら枕元にでも置くと思うし早苗さんに黙っているってことも不自然だ。そして何より五年前に妹さんを殺した犯人を見つけたというのが実に興味深い」
「調べてみたらありましたよ。これです」
そう言って圭吾は新聞の記事を切り抜いたものを取り出した。
「僕の目の前に出して見せるなんてことするなよ。運転中だ」
「分かってます。えーっと……『32歳女性 自宅前で何者かに刺され死亡』」
事件のあらましはこうだった。2009年五月十四日日午後三時頃帰宅途中の女性が何者かにナイフで刺されて死亡した。傷はそこまで酷くなかったものの、人通りが少なく発見されたのは死亡推定時刻の約三時間後である午後六時であった。人通りが少ない場所での犯行であるため目撃情報が皆無で現在も事件は未解決のままだ。
「目撃情報が皆無か……警察の調査を一般人が上回るとは思えないから何か他の方法で調べたのかな?どうも腑に落ちないな……」
「身近な人が妹さんのことを口にして追及したら犯人だった……とか?」
その時京介の携帯が鳴った。京介はポケットの中から携帯を取り出そうとする。
「京介さんっ!赤です!」
「しまった!」
慌ててブレーキを踏む。
「危なかった……。ありがとう圭吾君。……って着信音が鳴りやんじゃったな」
そう言いながら京介は携帯の着信履歴をチェックする。
「早苗さんからだな。何かあったのか?」
考え込む京介を呆れた目で眺めながら圭吾が言った。
「京介さん、赤です」