圭吾が試験に合格した三時間前のことだ。市川探偵事務所に一人の女性が訪れた。彼女の名前は飯塚早苗といった。
「夫の殺人を止めて下さい」
と早苗は言った。京介は目を丸くした。唐突にこんなことを言われたら誰だってそうなるだろう。
「貴方のご主人が殺人を?確かですか」
「勿論です」
そう言うと早苗はバッグから数枚の写真を取り出した。
「夫の部屋を掃除していた時のことです。ベッドの下を掃除しようとしたら掃除機が何かにぶつかる音がして気になって中を覗いたら……」
写真には拳銃が写っていた。
「拳銃ですね。玩具だってことはありませんか」
「いえ、試しに引き金を引いたら……」
京介は絶句した。
「まさか……」
「はい。弾を打ってしまいました。幸い、ガラスを割っただけだったので部屋に跡は残ってません」
「ご主人は今ご自宅に?」
「三日前から出張で大阪に出掛けています。明後日に戻ってくる予定です」
「ご主人が恨んでいる人物に心当たりは?」
「夫は五年前に妹さんを殺されてるんです。その犯人の目星がついたと言っていたのでその人だと思います」
このまま警察署へ行って直ぐに捜査を行ってほしいところだが、わざわざ探偵に依頼するということは夫を犯罪者にしたくないからだろう。この時点で銃刀法に引っ掛かる可能性がある。
「ではこうしましょう。まず明日にでもご主人の部屋を調べて凶器に為りうる物を全てご主人から遠ざけます。そしてご主人が帰宅したら説得しましょう。勿論私も同席します。ご主人が止まる様子もなく危険だと判断したら直ぐ警察に通報する。これで宜しいですか?最悪の場合ご主人は逮捕されてしまいまが……」
「分かりました」
こうして翌日凶器探しという物騒な作業をすることになった。次の日とんでもない事態が訪れることも知らないで……。