八月九日。子供はプールや虫取りを楽しみ、大人は容赦なく降りかかる仕事に悩み続ける。そう、夏休みである。だが、25歳となり自立はしているものの子供の如く夏休みを満喫している男がいた。
彼の名前は市川京介。神奈川県厚木市に探偵事務所を構える私立探偵である。仕事より趣味を優先する男。それでも探偵を続けていられるのは、変人染みているが楽観的でユーモア溢れる人柄に惹かれる人間が多く、それなりの人望と、親から受け継いだ莫大な財産かあるからである。だが、類は友を呼ぶという諺の通り彼の周りにも変人ばかりである。例えば京介の従兄弟である永松圭吾。彼はそれなりの推理力や洞察力はあるものの何処か抜けているためにことごとく的外れな推論をかますという残念な人である。
今回京介が経験する慌ただしい夏休みの発端は圭吾が市川探偵事務所へ駆け込んで来たことから始まる。