〇高級マンション、外、朝
   田んぼの中の高層マンションの遠景。

〇同、408号室、外、朝
   松平の表札。

〇同、内、朝
   松平が電話をしている。
   妻静子がその足元で泣いている。

松平「裁判所でっか、もう執行官の方は出はりましたか?
えっ、もう着くころ、そうでっか。おおきに」
   松平、受話器を置き泣いている静子をなだめながら、

松平「しゃあないなあ。お前がはよわしに言わんからや。差し押さえ
でもなんでもしてもらおう。昨日の今日じゃなんにもでけんわ、ほれ」
   松平、静子を立ち上がらせる。

静子「かんにんえ。父ちゃん」
松平「とにかくベランダから覗いてみよ」
静子「(うなづく)」

〇同、ベランダ、朝
   松平と静子、下を覗いている。
   下方に玄関口が見える。
   黒塗りの乗用車が静かに止まる。
   二人、不安げに顔を見合わす。

〇同、玄関口、外、朝
   黒塗りの乗用車が止まる。

〇車、外
   車の助手席が静かに開いてパンチパーマ黒サングラス
   紫色のスーツを着た小男が降りる。
   運転席のドアが開き黒スーツ大柄な坊主頭が降りてくる。
   後部ドアが開いて事務スーツの女執行官が書類を抱えて降りてくる。
女執行官「さあ、行きましょか!」
坊主頭と紫スーツ「(素直な声で)はい!」