花と闇

クラウジアはヴォルフラムがどこかへ行きそうで怖くなった。
「……」
ぎゅうと抱きしめる。
「案ずるな。」
ヴォルフラムはクラウジアに言う。
「なにはともあれ、これで解決だな。」
そう言った時、何かが割れる音がした。
「?」
クラウジアは不思議そうな顔をする。
ヴォルフラムの指先からポタポタと血が滴る。
それを隠そうとしたが、出来なかったようだ。
「フラン!」
手をそっと掴み、それを見た。
壊れた硝子のように、ひび割れ、侵食していく。
「……予想よりも力を使いすぎたらしい。」
「どうすればいい?」
「その子供を病院へでも連れてけ。まぁ、大事はないだろうが。……俺は、どうにもなりそうもない。」
諦めたようにヴォルフラムは言う。
「御前はどうなるんだ?このまま」
「死なない。」
クラウジアの予想を否定する。
「まだ、この程度では死ねないだろう。すぐに治まり、回復を始める。問題ない。」
そう答えると、再び、割れる音がした。
(予想以上に侵食が深い。)
ヴォルフラムは滴る血を見る。
(……転生を繰り返しているせいで脆くなっているのか。)
痛みと苦しみを耐える反面、冷静だった。
「回復すれば帰る。」
「御前も病院へ」
“行こう”と言いかけて息を呑む。
指先だけでなく、足元からも血が流れる。
ガクッと崩れ落ち、ヴォルフラムは座り込んだ。
「問題ない。とは、言えないが……同じことだ。」
「私の血を飲めば回復も早まるのではないか?」
「加減できる自信はない。さっさと行け。……無様な姿はあまり晒したくない。」
決まりが悪そうに言った。
「——っ、」
バキバキと身体が崩壊する音と血の雫が落ちる。
(何だ?それにしても、崩壊が酷い。)
異常を感じた。
「フラン!!やっぱり、一緒に行こう。」
「……もう、歩くことも侭ならない。」
(転生を繰り返して、ガタが来ているということか。)
脆い身体が壊れゆくのをヴォルフラムは冷静に感じていた。
クラウジアは必死でヴォルフラムに触れる。
「いくらなんでも、二人を連れては行けないだろう。」
ヴォルフラムは手を突き放した。
「そうだな。」
そう答えるのは背後の人物。
橙の髪色の役人。
「シャルドネ。」
クラウジアは其方を見た。
「向こうでは騒ぎになっているぞ。」
呆れたように溜め息を吐く。
「その男が犯人か。そして、その子供も。」
「シエンは関係ない!」