花と闇

『君は血を飲むとひとの体力を吸収できるようだね。そして、溜めたエネルギーは癒しをもたらす。どうだい?世界のために使ってみないか?』

「……おかしいよね。まちがってる。」
シエリアは自嘲する。
「でも、もう……止められない。私が、死んでも……このちからがなくなる、まで……」
「シエン!」
クラウジアは植物を薙ぎ払い、シエリアを抱きしめる。
「嫌だ!死ぬなんて、許さない!」
「うん、うん。」
そう言うと、クラウジアに凭れる。
「はなれ、て……」
自力では立てないことを解っていても、迫る植物を警戒して言う。
「いいの。もう、いいの。」
「いいわけないだろ。」
「シエリア。」
クラウジアの言葉を遮るようにヴォルフラムは名前を呼んだ。
珍しく名前を呼ばれたことにシエリアは驚く。
「フラン?」
クラウジアは怪訝そうだ。
それに構わず、ヴォルフラムはシエリアに触れる。
「……上手くいくかは解らないが。」
そう言いながら、目を閉じた。

——深い闇。
血溜りの中にヴォルフラムとそれによく似た男。
男は言う。
「貴様は戻りたいのか?」
同じ声音で問う。
「裏切り、何度も繰り返す貴様が。今更、この力を欲するか。」
「転生を繰り返したところで、本質は変えられない。吸血鬼となっても、そうだ。」
ヴォルフラムは真っ直ぐ睨む。
「サタン……地獄の罪人。そして、最初の“俺”。」
「そう言う貴様は何回目の“俺”だろうな。」
「知るか。」
そう言うヴォルフラムにサタンは睨む。
「だが、使い過ぎれば貴様が壊れるぞ。」
「構わない。」
ヴォルフラムは興味がなさそうに言った。

どうせ、死にたかったのだ。

目を開くと、シエリアの発光が止んだ。
シエリアはぐったりとしている。
「今の……」
「力を一時的に無効化しただけだ。これで、治まってくれればいいのだが。」
ヴォルフラムは迫ってくる植物が止まったのを見る。
「……どうだ?」
ゆっくり手を離す。
どうやら、治まったらしい。
「御前、そんな能力持っていたのか。」
「……“俺”の能力ではない。」
ヴォルフラムはシエリアを見た。
「神の恩恵を拒絶する能力。それが、最初の“俺”の能力。……転生を繰り返すうちに殆ど使えないようになったが。」
「最初?」
「未だ、転生する前の話だ。俺自身覚えていない。」
懐かしむように答える。