花と闇

翌日、昼過ぎにシャルドネが訪れた。
「シエンは?」
「取り調べ中だ。」
その問いにシャルドネは答えた。
「だが、消耗が激しく眠っていることが多くて進まない。それに、すっかり怯えきっていて話どころではない。今は軍のカウンセラーによるカウンセリングなどを受けさせているが、部外者は面会謝絶だ。」
「怯えて?……」
「何もしていないが……自分がやったことへの罪悪感、周りを傷つけることへの恐怖心ではないか?あいつの性格上、そう考えられる。」
“何をした?”という表情をするクラウジアに言う。
「私の部下が今日の担当だ。カウンセリングの後に取り調べるだろう。信頼おける者だ。問題ない。」
「そうか。」
「お前達にも取り調べを受けてもらう。だが」
シャルドネは眠っているヴォルフラムを見る。
「……昨日の話、聞いたぞ。あまり良くないようだな。」
「あぁ。まだ、あれから目が覚めていない。」
クラウジアはヴォルフラムを見つめた。
「御前、私よりも長くフランのことを知っているのだろう?」
「あぁ。知っているだけだ。」
「……私は、フランの過去を何も知らない。教えてもらえない。」
「だろうな。」
シャルドネは頷く。
「あまり良い話ではない。役所の資料のいくつかに転生前と見られるデータが残っているが、どれも悲惨だ。」
「教えてくれないか?」
「資料の話は部外者に軍の施設外で話すわけにはいかない。軍事に関わることだ。」
クラウジアにシャルドネは答える。
「だが、それ以外の範囲では問題ない。」
そう言うと、確実に思い出そうとゆっくり話し始めた。

——数年前
軍の施設跡地に男が居た。
男は眠っているように倒れていたが、やがて起き上がった。
『平和だな。』
そう、呟いた。
ここで昼寝でもしていたのだろうか。
しかし、ここは一般は立ち入り禁止で報道陣にも非公開だ。
見回りや警備もされていて、ここに居ることは異常だった。
『平和だと感傷に耽っているところ、失礼。』
怪しい者だと声をかける。
『其処は立ち入り禁止区域だ。何故此処に居る。』
『……?』
訳がわからない表情で居る相手に溜息をついた。
(迷子、か?)
眉を寄せる。
『軍管理の元施設に居るなど……機密情報目的か。』
『いや』
男は立ち上がり、こちらを見る。
『俺は此処に居た。』
ぽつりと言うと、辺りを見回す。
『……そうか。見ればわかるがな。』